ベテランイラストレーターが考える、好きなことを仕事にする幸せと不幸せ
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ベテランイラストレーターが考える、好きなことを仕事にする幸せと不幸せ

こんにちは、BXデザイン2チーム、イラストレーターのmarikoです。職歴としては、キャラクターデザインやCG、アニメーションなどを制作してきました。LINEでは7年程ブラウンやコニーなどのキャラクターイラストレーションを担当し、その後はたまにキャラクターも描きつつLINEブランドとしてのイラストレーションを担当しています。

好きなことを仕事にしたい。好きなことを仕事にするって実際どうなんだろう?そのように考える方はきっとたくさんいらっしゃると思います。
今回は実際に好きなことを仕事にして17年のイラストレーターと、その間に出会った同志たちの幸せと不幸せのお話をしたいと思います。

​それは仕事にできる「好き」なのか?​

みなさんが、自分の好きなことに目覚めたのはいつの頃でしょうか。私は、幼稚園生の時だったように思います。よくわからないクジャクの絵やちぎり絵のインコなどが残っています。今も鳥が大好きなのですが、そのころから好きなものを絵にするということを好んでいたことがわかります。そのころは、純粋に絵を描くことが好きで描いていました。しかし、小学校高学年でとてつもなく絵の上手い子と出会います。彼女は小学生にしてパースを理解し、どのような構図でも描くことができました。その時に「自分は絵が好きだけど、才能があるわけじゃないんだな」ということを悟ります。おそらくこれが人生最初の小さな挫折です。「自分が好きになったこと」の才能を自分が持っているとは限りません。​ではなぜ才能がないと思いながらも仕事にしたのかというと、結局はやはり「好き」だったからです。

人生の何十年もの時間を何に捧げるのか、と考えた時に選択肢は他にありませんでした。思い込んだら猪突猛進の私は、好きなことを仕事にしたときにどうなるのか?というようなことは全く考えなかったように思います。​しかし、好きだからこそ、よく考えるべきだったのかもしれません。単純に好きでいたいのであれば別の道を選んでもよかったのかもしれないと考えることが今もあります。​​

仕事にすると好きじゃなくなる?​

私の最初の職場は従業員100名程のゲーム会社でした。そこまで大きいとはいえない組織ですら、業界に入ってしまえば、それこそ才能も技量も情熱も持った「完璧か?」と思うような人たちと対峙することになります。「marikoは絵が上手いね」なんて小さい頃から親や友達に言われてきたけれど、業界に入ればその程度の「上手い」は当然のことです。上には上がいて、さらに上がいます。毎日試験を受けているような気になりました。うまく描けているだろうか?これであっているのだろうか?なんで先輩みたいにうまく描けないんだろう?私はここでやっていけるのだろうか…?不安は日ごと大きくなり、私は入社早々に体調を崩してしまいました。好きだった絵は病の原因になり、私は描くのが怖くなりました。しかし、同時に「このまま描けなくなるかもしれない」という恐怖が強くありました。復帰後は好きとか嫌いとか考える余裕はなく、追われるように描いていました。

数年もすると、歳の近いクリエイターが次々と辞めていきました。
「そもそもあんまり好きじゃなかったのかもしれない」「上手くないのにここにいるのが申し訳ない」「限界を感じた」…
みんなそれぞれ、好きを原動力に業界に入ったクリエイターたちです。確実に実力があった人も辞めていきました。
私は、彼らの退職が心をすり減らした結果だと考えています。
彼らが好きだった心を失ったかどうかはわかりませんが、好きという気持ちだけでやっていける業界ではないなと気づいていました。

「好き」だけでは生活できない!

心や身体をすり減らす原因はさまざまです。自分の実力不足に悩んだり、会社の意向と自分の意見が合わなかったり、周りの評価に悩んだり…しかし、もう一つ、業界的な問題が大きくあるように思います。

好きなことを仕事にできる業界は一般的に給料が安くて労働時間が長い傾向にあることはみなさんご存じの通りです。好きなことを仕事にしていると「働かせてもらっている」と思いがちです。業界としても低賃金で働いてくれるならそれに越したことはないと考え現状維持を決め込んでいる状態です。特に若いクリエイターは生活の成り立たなさが顕著であり、それでいて体力はあるので「好き」とか「早く一人前になりたい」とかそういう気持ちで無理を繰り返し心や身体を壊していくのです。

かくいう私も最初のゲーム会社は深夜勤務や徹夜を繰り返した結果、思わぬ形で体調を崩し、体力の限界を感じて転職に至りました。これに関してはクリエイター自身も変わっていかなければならないと思っています。悪環境に支配されるのではなく、自分の能力を高く買ってくれるところへどんどん移動していくべきです。そんなに技術力ないし…なんて謙虚なことを言っている場合ではなく、体調を崩す前にまずは健康な生活ができる場所を確保してほしいと思います。そして、そのような環境の企業があれば、改善されることを望んでいます。

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仕事が自分の好きとかみ合わなくなった時

絵を描くのが好きではじめた仕事でしたが、当然好きな絵ばかりを描けるわけではありません。好きな絵を仕事で描けるというのは大変幸せなことですが、仕事を選り好みできるクラスのクリエイターはほんの一握りです。少なくとも、会社などの組織に所属するクリエイターは会社の方針で仕事内容が大きく変化することも大いにあります。

私も最初の仕事こそ得意ジャンルであるキャラクターデザインを担当することができましたが、次に来たのは正直全く知見や経験値のないジャンルの版権のお仕事でした。一口にイラストと言ってもジャンルは様々です。マンガやアニメ、オシャレなグラフィック、絵本のような可愛らしい絵、絵画のような重厚な絵…自分の絵のスタイルや好みと全く違ったものを求められ続け辞めてしまったという話はこの業界ではよく聞く話です。

現実にはひとつのプロジェクトにはたくさんのお金やそれを支える多くの人の意向があり、私たちクリエイターの「こういうの描きたい」という希望はなかなか通ることがありません。「好きなもの」を仕事にするということは「好きではないもの」へのある程度の対応力とそれなりの覚悟が必要になります。好きなものが近くにあるのに手が届かないというのはなんとも歯がゆいものです。

好きだからこそ、盛大に傷つく

それがどんなものであっても、好きなものを人に否定されると傷つきます。ましてそれが幼いころから好きでやってきたことだったり、人生をかけてやってきたことであればなおさらです。好きなものを仕事にすると、そうでない仕事をやるよりもずっと傷つくことが多くなるのは間違いありません。
仕事となれば自分の意向だけではどうにもならないことだらけです。自分がつくったものを否定されたり、変更を求められたり、唐突に明日から別の仕事をしてくれない?なんてことすらあります。仕事はこちらの心に配慮なんてしてくれないのです。ことあるたびに傷ついていたら好きなことを仕事にはしていられません。改善できる反省点のみ受け取り、あとは他責にするくらいの気持ちでないと心を消費しすぎるのです。「ちょっとあの人とは趣味が合ってなかったかもね!」といった感じに。

好きだから続ける。好きだから辞める。

私は好きでこの業界に居続けていますが、逆に好きだからこそ辞めていくクリエイターもいます。好きなことは自分にとって聖域といっていい場所です。純粋に心から楽しんで生き甲斐にするべきものを仕事として差し出すことは聖域を明け渡すことでもあります。何度も言いますが、仕事にすればつらいことも悲しいことも日常として起こるものです。

昔は自分の趣味をたくさんの人に共有する場というのはなかなかありませんでしたが、最近ではSNSで簡単に共有できます。そこにはプロ並み、またはそれ以上の技量を持ちながらそれを趣味とし、普段は全く別の仕事をしているという方を多く見かけるようになりました。彼らは純粋に自分が楽しむための活動をしています。常識の範囲内であれば誰に制限されるものでもないし、好きなことを好きなだけやればいいのです。それはとても賢い選択に思えます。

仕事とすれば自分の好きなものを見失うこともあります。自分の好きなものを守るためにあえて別の道を選択するということも正しい選択なのだと思います。

結局幸せなのか、不幸せなのか?

ここまでなかなか厳しい現実を露呈してきましたが、見事にネガティブワードばかりです。なぜこのような記事になったのかというと、それだけ大変な思いをしたクリエイターをたくさん見てきた経験があるからです。
私自身、今でも思い出しただけで心が重たくなるようなことがいくつもありました。17年間好きなことを仕事にしてきたはずですが、本当に好きな絵を描いていたというのはおそらく10年に満たないくらいです。ちなみに現在私が仕事のメインにしているのは「オシャレなグラフィック」ですが、正直自分が得意だと言えるジャンルではないです。数年後にはまたどんなものを描いているのか想像もつきません。笑

しかし今はそれも楽しいと感じています。この歳になってもいまだに成長の余地があると考えられるのは面白いことです。自分で好きなようにやっているだけでは絶対にできない体験を17年間してきました。才能はないとしてもやれることは増えたし、どのような案件が来ても「なんとかしますよ」と言い切るだけの自負があります。好きの原動力と経験値の積み重ねでなんとかここまでやってこれたのです。

最近、自分の「好き」の正体について気づいたことがあります。これはたぶん「執着」なんだな、と。悪い意味でつかわれがちな執着ですが、愛着と言うには少し違う気がします。愛しくて憎らしいのが自分の仕事なのです。

私はまだ当分はこの業界のあたりをうろうろするつもりです。そして利き手が無事に動いているうちはなにかしらを描き続けるんだろうな、と思います。なんにせよ、ひとつのことにここまで執着できる人生は幸せと言えるのではないでしょうか。

これから好きなことを仕事にしたいと考えている方にとって参考になったかどうかはわかりませんが、自分の執着度合いがどれくらいのものなのか?ということも考えてみると良いかもしれません。仕事にするしないを決めるのは自分ですが、どちらも間違った道ではありません。ぜひ自分の「好き」を大切にできる道を歩んでほしいと思います。

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